生成AIで、BtoBの購買プロセスは本当に短くなるのか ―「メッシー・ミドル」から考える探索と評価
更新日:2026-08-27 公開日:2026-08-27 by 村橋 昇
生成AIの普及により、製品やサービスを探し、比較し、候補を整理するまでの情報探索は、これまで以上に短時間で進められるようになりました。
では、情報探索が速くなれば、BtoBの購買プロセスそのものも短くなるのでしょうか。
SEデザインは、そう単純ではないと考えています。候補を探す「探索」は速くなりますが、どの企業を選ぶかを判断する「評価」まで簡単になるわけではありません。むしろ比較が容易になるほど、企業が示す情報の具体性や根拠の差は見えやすくなります。
生成AI時代にBtoB企業が考えるべきなのは、情報をどれだけ増やすかではなく、顧客が自社を評価するための材料を、十分に用意できているかです。
顧客は、一直線に購買へ進むわけではない
Googleは2020年に発表した「Decoding Decisions」で、購買のきっかけから購入までの複雑な意思決定領域を「メッシー・ミドル」と表現しています。この領域では、選択肢を広げる「探索」と、候補を絞る「評価」が繰り返されます。調べては比較し、比較した結果から再び情報を探しながら、最終的な選択へ進んでいくという考え方です。
ここで重要なのは、メッシー・ミドルを単に「顧客が迷っている期間」と捉えないことです。顧客はその間に、選択肢を増やし、判断材料を集め、候補を絞っています。
もちろん、この研究は主に消費者の購買行動を対象としたもので、BtoB、とりわけ日本企業の購買へそのまま当てはめるべきではありません。ただし、「探索」と「評価」を繰り返しながら意思決定するという考え方は、生成AI時代のBtoB購買を考えるうえでも有効な助けになります。
日本のBtoBでは「組織が判断材料をそろえる」
BtoBの購買では、製品を使う担当者だけで意思決定が完結することは多くありません。上司、情報システム部門、調達部門、経営層など、複数の関係者が選定に関わり、確認されるのも機能や価格だけでなく、導入負荷やセキュリティ、既存環境との整合性、提供会社の信頼性、導入後の支援体制など、立場によって評価する項目が異なります。
SEデザインが日本のBtoB企業を支援する中でも、担当者自身はサービスを評価していても、社内説明に必要な情報が足りず、検討が進まない場面を見てきました。
そのため、BtoBにおけるメッシー・ミドルは、個人が迷うプロセスというより、組織が判断材料をそろえ、合意を形成するプロセスとして捉えた方が実態に近いと考えています。
生成AIは「探索」を速くする
生成AIによって大きく変わるのは、まず探索です。
これまでは検索結果から複数のWebサイトを開き、それぞれの情報を読み比べる必要がありました。今では生成AIに条件を伝えることで、候補企業の洗い出しや各社の違い、選定時に確認すべきポイントまで短時間で整理できます。
たとえば、買い手は次のような問いから情報収集を進められます。
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自社の課題に合うサービスは何か
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各社にはどのような違いがあるか
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選定時に確認すべきポイントは何か
これまで人が複数の情報源を行き来しながら整理していた作業の一部を、生成AIが代替できるようになっています。そのため、探索にかかる負担はこれまでより小さくなります。
しかし、候補を早く見つけられることと、早く意思決定できることは同じではありません。
比較しやすくなるほど「評価材料」の差が見える
生成AIを使えば、複数企業の情報を短時間で並べて比較できます。そこで重要になるのが、企業側がどのような情報を公開しているかです。
「高品質なサービスを提供します」「豊富な実績があります」といった抽象的な説明だけでは、比較の材料になりません。顧客が知りたいのは、より具体的な情報です。
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自社と似た企業で実績があるか
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どのような課題に向いているか
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他社との違いは何か
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導入には何が必要か
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どのような制約やリスクがあるか
これまでは、公開情報だけでは判断できない部分を、営業担当者との対話で補完するケースも少なくありませんでした。しかし生成AIによって探索が効率化すると、問い合わせ前に比較できる範囲が広がります。その結果、説明が曖昧な企業や、主張の根拠を示せない企業は、営業が接触する前に候補から外れる可能性があります。
日本企業では「情報発信」より「評価材料」で考える
この議論を「生成AI向けのコンテンツを増やすべきだ」とまとめるだけでは、実務や経営判断につながりません。重要なのは、コンテンツの量ではなく、顧客の判断を前に進める情報があるかどうかです。
SEデザインは、BtoB企業のコンテンツを、単なる「情報発信」ではなく、顧客の「評価材料」として設計する必要があると考えています。
特に重要になるのが、企業自身が持つ一次情報です。顧客の具体的な課題、導入後の変化、実績データ、現場で得た知見などは、他社が簡単に代替できません。これらはSEOやLLMOのためだけに用意する情報ではなく、顧客が自社を比較し、選ぶ理由を理解し、その理由を社内の関係者へ説明するための材料です。

問い合わせ前の「評価」を設計する
多くのBtoB企業は、問い合わせ数、資料ダウンロード数、商談化率など、自社から確認できる行動を中心にマーケティング活動を評価しています。もちろんこれらは重要な指標です。しかし顧客の評価は、問い合わせが発生してから始まるわけではありません。生成AI、検索、業界メディア、導入事例、第三者からの評判などを通じて、問い合わせ前から比較と評価は進んでいます。
前回の記事「今期のリード獲得だけで、商談機会は十分か ―95:5ルールから考える「ショートリスト入り」」では、BtoBマーケティングを「未来の商談への参加権をつくる活動」と捉えました。ショートリストに入った後に必要になるのが、選ばれるための評価材料です。
生成AI時代に問うべきなのは、「コンテンツをどれだけ増やすか」ではありません。顧客が自社と競合を比較したとき、自社を選ぶ理由を説明できるか。さらに、その理由を顧客自身が社内へ持ち帰り、関係者へ説明できる状態になっているかです。
生成AIによって探索は速くなります。だからこそBtoB企業は、問い合わせを獲得するためだけの情報ではなく、顧客の評価を前に進める情報を整える必要があります。ショートリストへ入るところまでをマーケティングの役割とせず、そこから選ばれるまでを一つの商談形成プロセスとして設計する。生成AI時代のBtoBマーケティングでは、そこまでを視野に入れる必要があります。
参照
- Google / The Behavioural Architects, “Decoding Decisions: Making Sense of the Messy Middle”
Decoding_Decisions_The_Messy_Middle_of_Purchase_Behavior.pdf
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