アートとテクネ、その分かれ目に見えるデザインの本質|三宅美奈子氏×SEデザイン 篠崎社長 対談 #2

更新日:2025-11-06 公開日:2025-11-06 by SEデザイン編集部

目次

interview-ms_02「芸術」と「技術」。この2つは今日では別々のものとして語られますが、もとは同じ概念から生まれた言葉です。
産業革命を境に技術が人の手から機械へと移り変わっていくことで、「アート=人間の創造性」「テクネ=機械による再現」と区別されるようになったのではないか…。

デザイナー・アートディレクター・クリエイティブディレクターとして事業会社、国内外の広告代理店・グループ会社、IT・マーケティング事業会社での実績を重ね、現在は独立し、クリエイティブディレクター・アートディレクターとして活動する三宅美奈子氏。そして40年にわたりIT・マーケティング分野でグローバル企業を支えてきたSEデザイン代表取締役の篠崎晃一。ともに武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科の出身です。

二人の対談では、この変化を入り口に「デザインとは何か」という問いをさらに掘り下げていきます。ギリシャ時代の語源から現代の生成AIまで、アートとテクネをめぐる歴史をたどることで、デザインの本質がより立体的に見えてきます。

本対談は全3回シリーズでお届けしています。
第2回となる今回は「アートとテクネの関係性」を手がかりに、技術の進化がデザインにもたらした変化を考えていきます。

アートとテクネ──同じ概念から始まった芸術と技術

――さきほどの「デザインの曖昧さ」のお話、とても印象的でした。今度は「デザイン」と良く並べて語られる「アート」についてもお聞きしたいです。

篠崎:
アートを語る上で外せないのが、「アート」と「テクネ」の関係です。実はこの2つ、もともとは同じ意味だったんですよ。ギリシャ語の「テクネ(techne)」がラテン語に翻訳されて「アルス(ars)」となり、この言葉から「アート」という概念が生まれました。

当時、つまり内燃機関など無い時代、機械に頼らず人が建物を建てたり、絵を描いたり、彫刻をつくったり――そうした「人間の力による表現や創造の営み」全体が、アートでもありテクネでもあったわけです。

――今では芸術と技術は別々のものとして語られますけど、昔は区別がなかったんですね。

篠崎:
そうだと思うのです。大きく分かれたのは産業革命以降ではないかと。これは私の独自の解釈になりますが、蒸気機関や電気、コンピューターといった技術が登場し、人の手でやっていたことがどんどん機械に置き換えられていきました。その結果として、「アート=人間にしかできない創造性」、「テクネ=機械による再現や効率化された技術」というように意味が分かれていったんだと思います。

三宅美奈子氏(以下、三宅氏):
つまり、もともと一体だったものが技術の進歩によって2つに切り離されたわけですね。

篠崎:
昔はすべて人力だったのでアートもテクネも同じものでしたが、技術が機械化して人の力から切り離され、「外在化」したことで、人の手に残った部分がアートとして位置づけられるようになった。そう考えると、現代における両者の違いも理解しやすいと思います。

生成AIの登場がもたらす芸術と技術の再接近

――芸術分野にも技術分野にも、最近では生成AIの登場が大きなインパクトを与えていますよね。この点についてはどうお考えですか?

篠崎:
生成AIは、アートとテクネがもう一度近づいていく可能性を感じさせます。もともと一体だったものが分かれ、さらに進化した技術が再び人間の創造性と交わろうとしている──そういう面白さがあると思います。

三宅氏:
ただ、生成AIにはまだ不自然さも残っていますよね。生成AIがつくった画像は、髪の毛や指先など細かい部分に違和感が出たり、ニュアンスが表現しきれていなかったりする。私はこれを見て、30年前のCGブームを思い出すんです。

当時も「CGがあればリアルなデザインは不要になる」と言われましたが、実際にはそうはならなかった。レンダリングしただけでは硬い印象になってしまい、最後は人間がPhotoshopなどで手を加えないと自然に仕上がらなかったんです。生成AIも同じで、現状ではまだ「人の手が加わって初めて完成する技術」の段階かと思います。

篠崎:
AIは既存の膨大なデータをもとにアウトプットを生成しますが、ゼロから新しい概念を生み出すわけではないですからね。だから結局、人が持っている歴史やマーケット、ブランド力といった土台があってこそ力を発揮できる。

私の好きな言葉で言えば「最後はドメインが勝つ」ということ。この“ドメイン”とはインターネット上の「住所」を表す文字列のことですが、「自分がどの領域に属しているか」「どんな背景を持っているか」という意味でドメインが重要であるということです。

たとえば長年培ってきたブランドや、積み重ねてきた市場との関係性。そうしたものがあるからこそ、AIの力を借りたときに一気に加速できる。逆に言えば、土台がないところにAIを使っても、差別化はできない、ということです。

――なるほど。つまりAIは人の仕事を完全に置き換えるものではなく、すでにある強みを引き出し、より大きく伸ばしていくための存在なんですね。

篠崎:
だからこそ、アートとテクネが再び交わりつつある今、どこに人が関与するのか、そしてどんな「土台」を持っているのかが、ますます重要になってくると思います。AIは強みを引き出し加速させてくれますが、それをどう活かすかは最終的に人のディレクションスキルにかかっているんですよね。

まとめ

今回の対談では、「アート」と「テクネ」はもともと同じ概念から生まれた言葉であり、産業革命を経て「人間にしかできない創造性」と「機械による再現・効率化」という別々の領域に分かれていったのではないか、という興味深い視点が語られました。

さらに生成AIの進化によって、両者が再び交わりつつある、という指摘もありました。AIは人が持つ強みを引き出し加速させる存在であり、その力をどう活かすかは組織や個人が持つ「土台」や、人のディレクションスキルにかかっている──そんな考え方も印象的でした。

アートとテクネの関係をたどることで、デザインの本質に改めて光を当てられるかもしれません。そうした気づきが、この対談から浮かび上がってきました。

次回のテーマは「デザインとブランディング」。物理パッケージに象徴される“可視化”からデジタル体験やUI/UXへと広がる現在地まで、見えない価値をどう伝え、市場へ浸透させていくのかを考えていきます。

 

 

この記事をシェアする

  • note
  • メール
  • リンクをコピー
miyakeminako_
クリエイティブディレクター・アートディレクター
三宅美奈子
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科を卒業後、TOTO株式会社、電通グループ、グレイワールドワイド、ピュブリシス、博報堂DYホールディングス、など事業会社、国内外の広告代理店・グループ会社、IT・マーケティング事業会社にてデザイナー、アートディレクター、クリエイティブディレクターを務め、広告・ブランディング領域で、ロゴやパッケージ、グラフィック、映像、Webなど幅広くクリエイティブを手掛けてきた。直近10年はIT・マーケティング企業でのクリエイティブディレクター・アートディレクターを務め、現在は独立し、クリエイティブ領域、マーケティング領域を横断したブランディングを中心とした活動を行っている。
https://miyakeminako.com/
https://7me.site/
SEデザイン代表 篠崎晃一
株式会社SEデザイン 代表取締役
篠崎晃一
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科を卒業後、コーポレートコミュニケーションのデザインに携わる。1986年、マイクロソフト日本法人立ち上げの際の統一パッケージをデザイン。その後、組織を翔泳社デザイン研究所に集約し、外資系IT関連企業のマーケティングコミュニケーションを支援する事業を展開。現在、株式会社SEデザイン代表取締役。1990〜2022年、武蔵野美術大学の非常勤講師として、基礎デザイン学科の[Text Information]、デザイン情報学科の[Branding Design]などのデザイン演習を担当。