BtoB企業サイトは、「問い合わせを取る場所」のままでよいのか―AI時代の購買行動から考える、企業サイトの役割
更新日:2026-09-23 公開日:2026-09-23 by 村橋 昇
BtoB企業のWebサイトでは、流入数や資料ダウンロード数、問い合わせ件数などが成果指標として重視されます。もちろん、これらは重要です。
一方で、買い手の情報収集や比較検討の進め方が変わるなか、企業サイトを「問い合わせを獲得する場所」とだけ捉えることには限界があると考えます。
HubSpot Japanが2026年に実施した「日本のBtoB購買に関する意識・実態調査2026」では、売り手に接触する買い手の63.5%が、その時点ですでに複数候補のリストアップの先まで検討を進めていました。
つまり、買い手は問い合わせをしてから企業を評価し始めるわけではありません。問い合わせの前から情報を集め、候補を比較し、ある程度の評価をしています。
こうした購買行動を前提にすると、企業サイトに求められる役割も変わってきます。
企業サイトを見るとき、買い手はすでに「白紙」ではない
企業サイトを訪れる買い手は、必ずしもその企業について初めて知る人ではありません。
検索エンジンや業界メディア、SNS、レビュー、知人からの情報などを通じて、すでに複数の企業を知っている可能性があります。自社の課題や要件が整理され、「候補の中でどこが自社に合いそうか」を確認するために企業サイトを見るケースもあるでしょう。
前回の記事「生成AIで、BtoBの購買プロセスは本当に短くなるのか ―「メッシー・ミドル」から考える探索と評価」で取り上げた「Messy Middle」の考え方でも、顧客は一直線に購買へ進むのではなく、探索と評価を繰り返しながら判断するとされています。
生成AIの普及によって、この傾向はさらに強まっています。G2の2026年調査では、BtoBソフトウェア購買者の71%が調査プロセスでAIチャットを利用しており、利用目的のトップにベンダー間の強みや弱みの比較が挙げられています。
これは、企業サイトを訪問する前から、自社と他社の比較が始まっているということです。
だからこそ、企業サイトは単に「自社の良さを説明する場所」ではなく、買い手が「自社を評価し、他の選択肢と比較するための判断材料を得る場所」として考える必要があります。
買い手が知りたいのは、「良さ」だけではない 」
企業サイトでは、自社の強みやサービスの特徴、あるいは実績など、「何を伝えたいか」を起点に情報が設計されることが少なくありません。
しかし、買い手が比較・評価するときに知りたいことは少し違います。
たとえば、自社のような企業に向いているのか、どんな課題に強いのか、他の選択肢と何が違うのか、導入すると何が変わるのか、どの程度の費用がかかるのか、どのような条件や制約があるのか、といった情報です。
HubSpot Japanの調査でも、信頼できる情報として「価格や追加費用、契約条件が明瞭な情報」や「導入事例」が上位に挙げられています。
ここから読み取れるのは、買い手が単に「魅力的な説明」を求めているのではなく、「自分たちで判断できる材料」を求めているということです。
企業が伝えたい情報と、買い手が判断するために必要な情報は、必ずしも一致しません。
「比較される」と「競合を批判する」は同じではない
ただし、日本企業、とりわけ中堅・大企業では、競合企業との直接比較には慎重になるケースが少なくありません。
実際にオウンドメディアやコンテンツの企画で比較記事を検討しても、 「他社を否定しているように見える」「競合企業名を出すことへの社内承認が難しい」といった理由から、実施を見送ることがあります。
こうした判断自体は理解できます。
一方で、競合企業を直接比較しないことと、買い手に比較材料を提供しないことは別の話です。
競合名を出さなくても、
- どのような企業や用途に向いているのか
- 選定時に何を基準に考えるべきなのか
- 自社が特に得意とする領域はどこなのか
- 導入にあたってどのような前提条件があるのか
を示すことはできます。
むしろ、すべての企業に適しているように見せるより、「こういう場合には自社が適している」と明確にした方が、買い手は判断しやすくなります。
比較とは、必ずしも「A社よりB社が優れている」と示すことではありません。
買い手自身が、自社に合う選択肢を判断できる基準を提供することも、比較を支援する方法の一つです。

「何を発信するか」より、「何が分からないか」を考える
企業サイトやオウンドメディアの運営では、「次は何を発信するか」「記事を何本増やすか」「どのサービスページを更新するか」という議論になりやすいものです。
しかし、情報量を増やせば買い手の判断が進むとは限りません。
むしろ先に考えるべきなのは、買い手が自社を評価するとき、「何が分からない状態になっているのか」です。
他社との違いが分からない。自社に向いているのか分からない。導入後の姿が想像できない。実績はあるが、自社と似たケースが見つからない。費用や条件が分からない。
こうした「分からない」が残っていれば、サイト内に多くの情報があっても、買い手の判断は止まります。
企業サイトの課題は、「情報量が足りない」ことではなく、「判断に必要な情報が足りない」ことかもしれません。
企業側が発信したいことから考えるのではなく、買い手が理解し、比較し、判断するために不足しているものから考える。この視点が、これからの企業サイトには必要だと考えます。

AI時代ほど、企業自身が「評価材料」を持つ意味は大きくなる
生成AIによって、買い手は、企業サイトを訪れる前から候補を探し、企業同士を比較できるようになっています。
だからといって、企業サイトの重要性が下がるわけではありません。
AIが企業について答えるときも、その元になるのは企業自身や第三者が公開している情報です。また、AIや第三者から得た情報を見た買い手が、「本当にそうなのか」を確かめる場として企業サイトを見ることもあります。
情報収集の入口が変わるほど、企業自身が「自社は何者なのか」「どのような企業に向いているのか」「何を根拠に選ばれるのか」を明確にしておく意味は、むしろ大きくなります。
企業サイトの成果として、流入や問い合わせを見ることはこれからも重要です。
ただし、それだけでは問い合わせ前に進む比較・評価のプロセスを捉えられません。
企業サイトは「問い合わせを取る場所」であると同時に、買い手が自社を理解し、他の選択肢と比較し、自分たちに合うかを判断するための場所でもあります。
その前提に立つなら、企業サイトでまず問うべきなのは「次に何を発信するか」ではありません。
「買い手は、何が分からないために自社を判断できないのか」。
この問いから企業サイトを見直すことが、これからのBtoBマーケティングでは重要だとSEデザインは考えます。
参照
- HubSpot Japan「日本のBtoB購買に関する意識・実態調査2026」
https://www.hubspot.jp/company-news/state-of-buyer-2026 - G2「The Answer Economy: How AI Search is Rewiring B2B Software Buying」
https://learn.g2.com/g2-2026-ai-search-insight-report
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BtoB企業のマーケティング支援に携わる立場から、国内外のBtoBマーケティング動向を日本企業向けに読み替え、実務でどう捉えるべきかを考察します。