SaaS事業において、ACV(年間契約額)は収益管理に欠かせない重要な指標の一つです。SaaS事業では、モニタリングすべき指標が多くあるため、担当者のなかにはACVの重要性や計算方法などを正しく把握できていない方もいるのではないでしょうか。
本記事では、約40年にわたって企業のコンテンツマーケティングを支援しているSEデザインが、SaaS事業におけるACVの重要性を解説します。ほかの指標との違いやACVを高めるための方法もまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
SaaS事業における「ACV」とは
ACV(年間契約額)とは、「Annual Contract Value」の略語です。顧客一人の契約によって得られる年間の収益額を示す指標です。ACVの算出によって、顧客一人あたりの収益性を確認できるため、新規顧客獲得のマーケティング戦略立てやアップセル・クロスセルの提案がしやすくなります。
SaaS事業においては、ACV以外にも年単位で計算する指標があります。代表的な指標は、以下のとおりです。
TCV(総契約価値) |
契約開始から終了までの総収益を示す |
ARR(年間経常収益) |
毎年得られる年間収益を示す |
LTV(顧客生涯価値) |
1人または1社の顧客が生み出す予想収益を示す |
CAC(顧客獲得単価) |
1人または1社の顧客を獲得するためにかかった費用を示す |
ほかの指標との違いを理解し、ACVを適切に活用できると、SaaSビジネスの拡大に欠かせない事業成長の推移把握が可能になります。
SaaS事業におけるACVの重要性
SaaS事業において、ACVは主に以下の点で重要です。
- 収益性の高い顧客が分かる
- 予算計画の参考になる
- マーケティング施策の効果検証に役立つ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
収益性の高い顧客が分かる
ACVによって顧客あたりの1年間の収益額か把握できれば、どの顧客が高額なプランを長期間利用しているのかも明確になります。また、ACVを比較・分析して収益性の高い顧客の特徴や共通点などを見つけ、営業戦略に活かすことも可能です。
たとえば、ACVは高額プランを契約している顧客が多い業界の絞り込みや長期契約を続けている企業規模のカテゴリー分けなどに役立ちます。収益性の高い見込み顧客にターゲットを絞ることで、より効果的なマーケティングを展開できるでしょう。
予算計画の参考になる
ACVは、将来の収益予測に役立つ指標です。ACVの増減に着目すると、翌年の収益予測やマーケティング予算の見直しなどに活用できます。また、ACVが高くなるほど収益の増加が見込めるため、事業成長を見越した投資や人員配置などの意思決定もしやすくなります。
なお、より確実性の高い予算計画を立てるためには、ACVと併せてARRも確認しましょう。定期的な収益を示す指標であるARRと組み合わせることで、長期的な安定性も測れます。
マーケティング施策の効果検証に役立つ
マーケティング施策の実施後にACVを確認すれば、施策の効果検証に役立てられます。
たとえば、ACVが増加している場合は、実施した施策が新規顧客の獲得やサービスの利用額の増加につながっているといえるでしょう。ACVが上がっていれば、施策の継続や規模の拡大などを判断しやすくなります。
一方、ACVが下がっている場合は、施策の実施後に顧客数や提供しているサービスに対する支出が減っていることを示しているため、戦略を見直さなければなりません。ACVの定期的な確認によって、施策の効果検証を重ねていくと、営業プロセスやマーケティング戦略の強化に役立ちます。
SaaS事業におけるACVの計算方法
SaaS事業におけるACVは、決められた計算式で導けます。
ACVは予算計画の参考になるものの、厳密には収益を予測するための指標ではありません。ACVは、基本的に確定した収益を計算して導き出す必要があるため、予測数値は含まないことが重要です。
以下で、SaaS事業におけるACVの計算方法と注意点を詳しく解説します。
ACVの計算式
ACVの基本的な計算式は、以下のとおりです。
利用期間には、1〜12ヶ月の数値を入れて計算します。また、月額料金とは別に初期費用やオプションサービス料金などの1回限りの料金も加算することが基本です。月額20万円の年間契約の場合、ACVは「20万円×12ヶ月=240万円」になります。
なお、ACVの平均数値を把握したい場合は、以下の計算式で算出できます。
顧客ごとのACVの平均化によって、SaaSビジネスの健全性を測ることも可能です。
ACVを計算する際の注意点
ACVを計算する際は、契約期間に着目する必要があります。SaaS事業は契約期間がさまざまであることから、ACVには年間、長期・短期という見方があります。
たとえば、12ヶ月未満の短期契約の場合は、実際の契約期間を基にACVを算出します。すなわち、月額10万円の6ヶ月契約であれば、ACVは「10万円×6ヶ月=60万円」です。
一方で、12ヶ月を超える長期契約の場合は、次の計算式でもACVを算出できます。
年額450万円の3年契約であれば、ACVは「450万円÷3年=150万円」になります。
なお、場合によっては初期費用の有無によって1年目と2年目の料金が異なるケースや月額料金が変動する場合もあるため、計算する際には注意が必要です。
SaaSの重要指標|ACV・TCV・ARRの違い
SaaS事業では、ACVをはじめ、TCVやARRなどの重要な指標が多く存在します。各指標はビジネスの効率性や継続性、成長性を可視化するためのものです。以下のように、それぞれ異なる観点から経営判断に役立てられます。
ACV(年間契約額) |
ビジネスの「効率性」を評価するための指標 |
TCV(総契約価値) |
ビジネスの「継続性」を評価するための指標 |
ARR(年間経常収益) |
ビジネスの「成長性」を評価するための指標 |
各指標の違いを理解し、適切に活用することで、事業の健全性の評価が可能です。詳しく見ていきましょう。
ACVとTCVの違い
ACV(年間契約額) と TCV(総契約価値) は、どちらもSaaS事業における契約の収益性を評価するための指標です。しかし、それぞれの必要性や計算対象などが異なります。
以下のとおり、TCVは全利用期間を対象に計算します。
TCVは契約における全体的な財務状況や顧客のLTV(顧客生涯価値)を把握するために役立ちます。なお、TCVを高めるためには、特典や割引の提供や拡張プランの設定によって、契約期間の長期化を図ると効果的です。
ACVとARRの違い
ARR(年間経常収益)は、毎年得られる安定した収益を示す指標です。継続して得られる収益のみを計算対象とするため、ACVやTCVと異なり、初期費用をはじめとする1回限りの料金は除外して計算します。
ARRには、年間の収益を基づく計算式とMRR(月次経常収益)に基づく計算式の2種類があります。
年間の収益に基づく計算式 |
ARR=前年の総収益+増益分-損益分 |
MRRに基づく計算式 |
ARR = MRR×12ヶ月 ※MRR = 月額料金×ユーザー数 |
ACVが契約状況の把握に役立つ一方で、ARRは推移を追跡して事業の成長率を可視化できる点が特徴です。なお、ARRを高めるためには、製品やサービスのアップグレードや新規顧客の獲得を増やし、ダウングレードや解約を減らす必要があります。
SaaSにおけるACVを高める方法
SaaS事業におけるACVを高める方法は、主に以下の3つです。
- アップセルとクロスセルで収益を増やす
- 解約率を改善する
- 継続的に品質を向上させる
SaaS事業を成功させるためには、ACVを高める必要があります。以下で、それぞれの方法を詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
アップセルとクロスセルで収益を増やす
アップセルとクロスセルは、ACVを高めるために有効な手法です。
アップセル |
顧客が利用または購入を検討している製品・サービスに対し、上位プランや追加機能を提案して顧客単価を上げる手法 |
クロスセル |
顧客が利用または購入を検討している製品・サービスに対し、関連商品を提案して顧客単価を上げる手法 |
ACVを高めるためには、アップセルとクロスセルによって上位プランやオプションサービスの契約を増やすことがポイントです。
なお、アップセルとクロスセルを成果につなげるためには、顧客ニーズの把握・分析が欠かせません。適切なタイミングでの提案やセールスでなければ、顧客満足度を低下させるため、注意が必要です。
顧客の事業内容や利用中の製品に対する満足度を把握し、興味・関心に沿って提案することで、効率的に収益の増加へつなげられます。
解約率を改善する
解約率(チャーンレート)を改善し、顧客に長期間サービスを利用してもらえるようになるとACVが高まります。解約率を改善するための具体策は、主に以下の3つです。
- 顧客からのフィードバック収集
- アフターフォロー体制の強化
- ナーチャリングの実施を挙げる
解約時には、アンケートを実施してフィードバックを収集し、製品やサービスに対する不満を解消しましょう。また、アフターフォローの充実やナーチャリングの実施なども、顧客のエンゲージメントを高める方法として効果的です。
ナーチャリングとは、顧客との関係構築・維持・育成のプロセスのことです。メールマガジンの配信やセミナーの開催などを通して顧客と定期的なコミュニケーションを図ることで解約率を改善できます。
継続的に品質を向上させる
ACVには製品やサービスの品質も大きく影響します。品質の向上は、顧客満足度や契約継続率を高めるだけではなく、アップセルとクロスセルの機会を増やすために欠かせないポイントです。
継続的に品質を向上させていくと、製品やサービスの価値が高まります。新規機能やサービス内容を追加した場合などは、品質の向上に伴って新たな価値を価格に反映することも重要です。品質の向上によって設定価格を見直すと、より収益性が高いプランの契約につながります。
SaaSのACVを高めるために押さえるべきポイント
ACVを高めるための前提条件として、押さえておきたいポイントは以下の2つです。
- 多様化するニーズを把握する
- 顧客データを活用する
以下で、詳しく見ていきましょう。
多様化するニーズを把握する
SaaS事業におけるACVを高めるためには、多様化するニーズの把握が不可欠です。実際に、SaaS市場における顧客のニーズは多様化しています。
そのため、顧客がどのような課題を抱え、どのような機能を必要としているかを把握し、企業ごとのニーズに合わせた提案力が求められます。
また、顧客のニーズは時間とともに変化するため、顧客と定期的にコミュニケーションを取ることも重要です。顧客満足度の低下や解約率の上昇を防ぐためにも、ニーズを無視した提案は避けましょう。
顧客データを活用する
多様化するニーズを把握するためには、顧客データの活用が効果的です。顧客データを活用してターゲットを絞り込めると、より効果的なアップセルとクロスセルにつながります。
なお、顧客データの管理・可視化にはHubSpotなどのマーケティングツールの導入がおすすめです。ツールを活用すると、市場調査をはじめ、顧客行動の追跡やフィードバックの収集などが容易になるメリットがあります。
また、製品やサービスのどの機能が最も利用されているのか、いつ解約が発生しやすいのかも把握できるようになります。
ツールを導入してSaaS事業のデータを可視化しよう
ACV(年間契約額)は、SaaS事業において顧客ごとの収益性を把握するための重要な指標です。
ACVを活用することで、収益性が高い顧客が分かるほか、マーケティング施策の検証にも役立ちます。顧客のニーズに合わせたアップセルとクロスセル、品質の向上に努めると、ACVが高まり事業の収益アップにつながります。
SEデザインでは、HubSpotの導入・活用支援を行っています。HubSpotは顧客情報を一元管理するためのツールで、SaaS事業におけるマーケティング施策や営業活動に役立つ豊富な機能を搭載しています。
ツールを導入して顧客情報を可視化できると、データを分析・活用して効果的にACVを高められます。CRMやMA、SFAなどのツール導入を検討されている方は、ぜひお気軽にご連絡ください。