商品や企業としての方針を決めていくうえで有効なフレームワークに「STP分析」があります。マーケティング戦略を立てる際に、ぜひ活用したい方法です。
本記事では、約40年にわたりIT業界を中心にBtoB企業のコンテンツマーケティングを支援してきたSEデザインが、STP分析のやり方や注意点、他社事例などを初心者向けに分かりやすく解説していきます。
STP分析とは
STP分析とは、マーケティング戦略の立案の際に使われる分析方法です。「近代マーケティングの父」と呼ばれるフィリップ・コトラーが提唱しました。
STP分析の「STP」は、以下の言葉の頭文字をとったものです。
- Segmentation(セグメンテーション):市場の細分化
- Targeting(ターゲティング):狙いたい市場の決定
- Positioning(ポジショニング):有利なポジションを決定
STP分析は、この3つの要素から市場や顧客について分析し、戦略を決定していく方法です。
STP分析を実施する目的
まずは、STP分析を実施する目的について理解を深めていきましょう。
ビジネスシーンにおいては、自社を取り巻く環境を把握し、それに適した戦略を打ち出すことが欠かせません。商品やサービスの強みを見つけ、より優位に立てるよう、提供する市場や顧客を意識的に選択していくことが求められます。
そのためには、市場や競合他社、顧客について調べて検討することが重要です。STP分析は、それらの環境について分析し、理解を深めることを目的としたフレームワークといえます。
マーケティング分析における他のフレームワークについては、下記の記事もぜひ参考にしてください。
STP分析が重要と言われる理由
STP分析が重要と言われる理由として、大きく分けて以下の3点があります。
- 顧客のニーズを正確に把握できる
- 限られたリソースを効率的に活用できる
- 明確なポジショニングで差別化できる
まず、市場を細分化することで、多様な顧客のニーズを正確に把握することができます。すべての顧客に一律のアプローチをするのではなく、それぞれの特徴に合った価値を提供することで、より効果的なマーケティングが可能になります。
また、顧客のニーズを明確化することにより、限られたリソースを効率的に活用できる点も大きな利点です。重要性の高いターゲット層を選定することで、無駄を省きながら成果を最大化する道筋が明確になります。
さらに、競合他社との差別化を図るため、自社の強みを活かしたポジショニングを明確にすることで、「この商品やサービスが自分に合っている」と顧客に感じてもらうことができます。このような印象づけは、競争が激しい市場で他社と差をつける上で非常に重要です。
STP分析の要素
次に、STP分析を理解するうえで欠かせない3つの要素の意味や使い方について見ていきましょう。
要素1:Segmentation(セグメンテーション)
1つ目の要素であるSegmentation(セグメンテーション)は、「市場を細分化し、顧客の分布を明らかにすること」を指します。
ブランドや商品・サービスを展開する際に重要となるのが、ターゲットとなる顧客層(セグメント)を設定することです。属性によって顧客をいくつかの層に分け、誰のための商品であるのかを意識して商品開発や宣伝活動を行います。
たとえば、あるアパレルブランドで「女性」「30〜40代」といった顧客を想定している場合は、性別と年齢でセグメンテーションを行っている状態といえるでしょう。
実際にセグメンテーションで使われる主な視点には、以下の4つがあります。
- 人口統計的変数:年齢、性別、職歴、学歴、家族構成など
- 地理的変数:居住地、宗教、慣習、気候など
- 心理的変数:ライフスタイル、価値観、性格、趣味など
- 行動変数:買い物の頻度や場所、利用方法、購買状況など
これらの視点に着目し、自社商品やサービスを求める顧客についてのイメージを膨らませていきます。
要素2:Targeting(ターゲティング)
Targeting(ターゲティング)は、「セグメンテーションによって細分化した顧客層を参考に、狙うべき市場を選択すること」を指します。
マーケティングでは、さまざまな市場の中から自社の強みが最も発揮されると思われる市場を選択することが大切です。商品やサービスの価値が発揮されやすい市場を選択することで、効率的にマーケティングを行うことができます。
ターゲティングは、「無差別型ターゲティング」「差別型マーケティング」「集中型マーケティング」の3つに分類されます。
無差別型マーケティング
同じ商品をすべての市場に届ける方法です。主に日用雑貨や食料品などがこれに当たります。
差別型マーケティング
複数の市場を狙い、それぞれに適した形態で商品やサービスを提供する方法です。1つの商品で「子ども向け」「大人向け」「家族向け」といった、複数の展開を行うことや、対象ごとに料金設定を変えることなどがその例です。
集中型マーケティング
限られた市場に集中して商品やサービスを提供する方法です。高級ブランドや専門性の高い商品など、局所的なニーズに応えるマーケティングがこれに当たります。
このようにターゲティングの工程では、自社の強みや市場の規模、ニーズを複合的に捉え、最適な市場を選定していきます。
要素3:Positioning(ポジショニング)
Positioning(ポジショニング)は、これまで検討してきた要素を元に「市場における優位なポジションを見つけること」を指します。
狙いたい市場ですでにポジションを確立している企業がある場合、競合他社と自社の位置関係や違いを把握し、自社が有利でいられるポジションを探すことが重要です。
また、自社の強みが発揮されやすいポジションを選択するためには、競合他社商品の価格や品質・機能などをチェックし、自社と比較することが有効でしょう。「自社の商品の強みを差別化して説明できるポジションであるかどうか」といった点から考えるのもおすすめです。
STP分析のやり方と手順
ここからは、STP分析のやり方を実際の手順に沿って解説します。
手順1:目的を明確にする
STP分析を実施する前に、なぜこの分析を行うのか、何を目的とするのかを明確にしておきます。
売上金額や顧客数の目標を数値化するなどして具体的な目的を設定し、分析を行ううえでの軸として意識していきましょう。
手順2:市場を細分化する(セグメンテーション)
次に行うのがセグメンテーションの工程です。自社にとって意味のある要素で市場を分類していきます。
セグメンテーションでは、前述の人口統計的変数、地理的変数、心理的変数、行動変数の指標を使って市場を細分化する方法のほか、以下の4つの視点でセグメントする「4Rの原則」も有用です。
・Rank(優先順位):優先度の高いセグメントであるか、優先順位はそれぞれ何位か
・Realistic(有効性):対象セグメントに十分な売上につながるターゲットや市場があるか
・Reach(到達可能性):商品やサービスを実際に届けられるか
・Response(測定可能性):顧客に与える影響を計測できるか
上記を参考に、自社に適した軸を組み合わせながらセグメンテーションを行っていきましょう。
手順3:目標とする市場を定める(ターゲティング)
セグメンテーションで細分化した市場の中から、これから狙うべき市場を決定していきます。ニーズがあり、市場が成長していて、かつ競合他社が少ない市場を選定することがポイントです。
前述の無差別型ターゲティング、差別型マーケティング、集中型マーケティングの視点や、4Rといったフレームワークを活用して検討していくとよいでしょう。
手順4:市場での位置関係を把握する(ポジショニング)
決定した市場の中で、自社がどのような位置を狙えるのかを把握しましょう。市場規模や競合他社の有無、立ち位置をチェックし、自社があるべきポジションを見つけていきます。ポジショニングマップと呼ばれる表を作成してポジションを可視化する方法も有効です。
手順5:マーケティング戦略を決める
STP分析によって自社の価値を発揮できる市場や立ち位置があると判断された場合、これまで検討してきた要素を、具体的なマーケティング戦略に落とし込んでいきます。商品開発や宣伝方法などについて検討するとともに、最初に設定したビジネスの目的を達成できるかどうかという視点からも判断していきましょう。
STP分析を行う際の注意点
次に、STP分析を行ううえでおさえておきたい注意点について解説します。目的を達成できるかどうかの重要なポイントにもなるので、細かく確認しておきましょう。
注意点1:顧客目線を失わない
分析を進めていくうえでは、自社にとって売りやすい方法や戦略を考えていくことも重要ですが、いつの間にか顧客の存在が疎かになっていたという事態に陥ることもあります。自社都合中心の分析では正確な分析結果の入手が困難になるため、顧客目線を忘れないよう意識しましょう。
注意点2:分析手順にこだわりすぎない
STP分析は、基本的にセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの順に行います。しかし、実際の分析では必ずしもこの順番を守る必要はありません。分析しやすい要素から始めたり、各要素を行き来したりして、自由に分析を深めていきましょう。
注意点3:実現不可能な施策になる場合もある
ここまで解説した方法で分析した結果、現実的ではない施策に行き着く可能性もあることを理解しておきましょう。
たとえば、顧客ニーズが高く競合他社が少ない市場を見つけたとしても、コスト面などの理由から実現が不可能なこともあります。STP分析で分かったことだけを重視するのではなく、現実の状況などを踏まえて広い視野で検討することが大切です。
注意点4:他の分析手法も活用する
STP分析以外の要素からも幅広く検討していくためには、ほかのフレームワークなどを活用することも有効です。マーケティングには、PEST分析やSWOT分析をはじめとする数多くのフレームワークがあります。多様なフレームワークを組み合わせてSTP分析の弱点を補いながら、多角的に分析していきましょう。
以下の記事で他の分析手法についても詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
STP分析と他のフレームワークとの違い
マーケティングには多くのフレームワークが存在しますが、それぞれ役割が異なります。ここでは、STP分析と併せて覚えておきたいフレームワークについて、STP分析との違いに触れながら解説します。
3C分析
3C分析(Customer, Company, Competitor)は、自社を「顧客」「自社」「競合」という3つの視点から把握するフレームワークです。一方、STP分析は市場の細分化やターゲット層の選定に重点を置いており、具体的なアクションを設計する段階で使用されます。3C分析は自社の現状を俯瞰するのに適していますが、具体的なターゲット層の選定やポジショニングには踏み込んでいません。
SWOT分析
SWOT分析は、自社の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、外部の機会(Opportunities)、脅威(Threats)を整理するフレームワークです。内部と外部の環境を統合的に考える点が特徴です。一方、STP分析はニーズに応じたターゲティングや差別化戦略を立てる点が特徴です。つまりSTP分析は、SWOT分析で導き出された強みを、実際にどのように活用するかを具体化するステップといえます。
4C・4P分析
4C分析は「顧客価値(Customer Value)」「コスト(Cost)」「利便性(Convenience)」「コミュニケーション(Communication)」の4つの要素から、顧客目線でのマーケティングを考えるフレームワークです。
また、4P分析は、製品(Product)をどの価格(Price)で、どこで販売(Place)し、どのように宣伝(Promotion)するか、具体的なマーケティング施策を設計するフレームワークです。
これらは実際の施策を考える段階で活用されることが多いのに対し、STP分析は「どの顧客をターゲットにし、どのように差別化するか」を定める上流工程で用いられます。
5フォース分析
5フォース分析は、業界の競争環境を「競合他社」「新規参入企業」「代替品の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」の5つの要素から分析するフレームワークです。市場全体の構造を把握するのに適しており、具体的な顧客セグメントや競争優位性を明確化するSTP分析とは目的が異なっています。
これらのフレームワークとSTP分析の違いを理解することで、それぞれを適切に使い分け、マーケティング戦略をより効果的に構築することが可能になります。
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STP分析を使った企業の事例
最後に、有名企業を事例にSTP分析をしてみましょう。
事例1:ユニクロ
アパレルメーカーの株式会社ユニクロは、LifeWear(究極の普段着)をコンセプトに現在の地位を確立しました。3つの要素ごとに分析をしてみましょう。
・セグメンテーション
性別や年齢といった従来の指標で客層を限定するのではなく「カジュアルかフォーマルか」「トレンド志向かベーシック志向か」という新たな指標を採用したと考えられます。
・ターゲティング
セグメンテーションを踏まえ「カジュアル・ベーシック志向」という市場・顧客をターゲットにしたと考えられます。
・ポジショニング
「手に取りやすい価格で高品質な商品を提供する企業」としてのポジショニングを目指したと考えられます。
事例2:スターバックス
家でも職場でもない、顧客が自分らしさを取り戻したりくつろいだりする場所「サードプレイス(第3の居場所)」をコンセプトに成功したスターバックスですが、STP分析の3要素に当てはめて考えると、以下のようになります。
・セグメンテーション
エリアや社会的地位、職業をもとにセグメンテーションを行いました。
・ターゲティング
エリアごと、時間帯ごとのニーズを調査したうえで出店しています。特に都市部では、「ある程度の社会的地位がある平均収入以上のビジネスパーソン」をターゲットに設定していたと考えられます。
・ポジショニング
「おしゃれで高級感があるおいしいコーヒーチェーン」として、独自のポジショニングを築きました。
STP分析で他社との差別化を図ろう
STP分析は、企業としての立ち位置を明確にし、狙った市場で的確に勝負していくために有効な手段です。自社の強みを発揮できるポジションを探り、競合他社との差別化を狙っていきましょう。
マーケティングでは、STP分析をはじめとするフレームワークが数多くあります。さまざまな分析手法を活用することで、効果的な戦略の立案を目指していきましょう。
SEデザインでは約40年にわたり、外資系IT企業様を中心に、BtoB企業様のコンテンツマーケティングの支援を行っております。貴社に最適な施策やプランをご提案させていただきますので、集客やリード獲得、リードナーチャリングなどにお悩みをお持ちでしたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。