SaaS(Software as a Service)は、企業の成長を加速させるビジネスモデルの1つとして注目されています。SaaSをビジネスモデルとして成功させるには、独自サービスの特徴や課題を正しく理解し、適切な戦略を取ることが重要です。
この記事では、成功事例や重要な指標を基に、SaaS事業の改善を図りたい方やこれから参入を検討している方に向けて、SaaSのビジネスモデルの仕組みを徹底解説します。
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SaaSのビジネスモデルとは
SaaSのビジネスモデルとは、クラウド技術を活用したソフトウェアを提供するというビジネスモデルです。料金体系はサブスクリプションや従量課金などがあります。SaaSは、ソフトウェアをクラウド上で提供し、インターネットを通じて利用者がアクセスできる仕組みです。
従来のソフトウェアとは異なり、インストールやアップデートの作業が不要で、サービス提供者がシステムの管理・運営を行います。そのため、利用者は手軽に最新のソフトウェアを利用でき、時間とコストを節約できます。
利用する企業にとっては、導入コストが低く、必要な機能を段階的に追加できるため、規模に応じた柔軟なサービス活用が可能です。また、システムのアップデートが自動で行われるため、IT部門の負担が軽減され、最新技術を維持しやすくなります。
SaaSビジネスモデルは効率的かつ柔軟な選択肢があることから、企業や個人にとって魅力的な選択肢となっています。
SaaSとサブスクリプションサービスとの違い
SaaSとサブスクリプションサービスは以下のように全く違う概念です。
- SaaSは「ソフトウェアの提供方法」
- サブスクリプションサービスは「料金の支払い方法」
SaaSはインターネットを通じてソフトウェアを提供する形態します。そして、定期的な支払い方法としてサブスクリプション方式を採用するケースが多い状況にあります。
ただし、サブスクリプションはSaaSに限らず、さまざまなサービスで利用される料金モデルです。そのため、全てのサブスクリプションがSaaSに該当するわけではありません。
SaaSの市場規模と将来性
SaaS市場は急速に成長しており、今後も拡大が期待されています。総務省の「令和5年版 情報通信白書」によると、世界のクラウドサービス市場は2021年時点で約4,100億ドルに達し、年平均20%を超える成長率を維持しています。とくに、SaaSはクラウドサービス全体で大きなシェアを占めており、PaaSやIaaSと比較しても成長率が高いといえる状況です。
日本におけるクラウドサービス市場も拡大を続けており、2026年には4兆円を超える規模になると予想されています。多くの企業がクラウドサービスの導入を進めており、中小企業においても、これまで導入が難しかった高価なソフトウェアを手軽に利用可能になりつつあります。
そのため、SaaSの採用が拡大しているといえるでしょう。今後もデータの活用やAI技術の進展により、SaaS市場は成長する見込みです。
なぜSaaSが市場を席巻しているのか
SaaSが急速に普及している理由は利便性やコストパフォーマンス、データの安全性にあります。インターネットさえあればどこからでもアクセスでき、迅速に導入可能です。クラウトベースであるため、リモートワークやグローバル展開にも活用できます。
また、月額や年額のサブスクリプションモデルである場合は、初期投資が少なく、企業の成長に合わせて料金や機能を見直すことも可能です。自動更新であるため、サービスのセキュリティーは常にアップデートされるため、データの安全性も保てます。
これらの利点によって、SaaSは今後もビジネスの意思決定や効率化を促進し、多くの企業に採用され続けると予想されます。
SaaSビジネスモデルの特徴
SaaSビジネスモデルの主な特徴は以下のとおりです。
さまざまなニーズに対応できたり、利用データの活用による機能改善が必要だったりする点も含めて、ここではSssSのビジネスモデルについて、詳しく解説します。
顧客の継続利用を前提としている
SaaSのビジネスモデルは、顧客の長期的な利用を促進する仕組みが重要です。SaaSでよく採用されるサブスクリプション型の料金体系では、顧客がサービスを継続的に利用することで月額や年額の料金が定期的に支払われます。
従量課金型のSssSであっても、初期コストを抑えやすく、柔軟な料金体制を構築すれば顧客に必要な機能のみを提供できます。どちらであってもサービス提供者は顧客に対して、機能改善や顧客満足度の向上などの高い価値を提供し、継続的に利用してもらえるような仕組み作りが求められます。
データ活用が欠かせない
SaaS事業では、顧客との関係構築やサービス向上のためにデータ活用が欠かせません。ユーザーの利用状況を分析することで、個別ニーズに対応したサービスの提供や問題の予測と迅速な対応が可能になります。たとえば、顧客の利用パターンに基づいたプラン提案や機能の活用方法の提案に加え、問題発生前にサポートを行うことで顧客満足度を高められるでしょう。
また、顧客のフィードバックを基に新機能を開発し、サービスの改善を続けることも可能です。使用頻度の低い機能の改善や全体的なサービスの見直しなどによってユーザー体験の向上も図れます。
多様なプライシングモデル
SaaSでは、企業が最適な料金体系を選べるように、さまざまなプライシングモデルが採用されています。代表的なモデルには、定額のサブスクリプション型、利用量に応じて支払う従量課金型、基本機能が無料でプレミアム機能に課金するフリーミアム型があります。
これらの多様なプライシングモデルにより、顧客のニーズに合わせた柔軟な料金体系を提供できるため、幅広いターゲット層に対応可能です。
SaaSビジネスモデルのメリット
SaaSビジネスモデルには、以下のようなメリットが挙げられます。
- 急速な事業拡大が実現できる
- 継続的かつ安定した利益を実現できる
- 常にアップデートされたサービスを提供できる
それぞれのメリットについて、詳しくみていきましょう。
急速な事業拡大が実現できる
SaaSはクラウドを活用しているため、事業拡大が容易です。従来のソフトウェアに比べて、地理的な制約を受けずにサービスを提供でき、ソフトウェアの導入も迅速に行えます。たとえば、グローバルな顧客基盤を整える場合もインフラを新しく構築する必要がありません。
運用コストとリソースの見直しも迅速にできるため、大規模なユーザー増加にも対応しやすい点はメリットです。また、データ活用によるサービスの改善・向上も図れるため、競争力の強化もしやすいといえるでしょう。
継続的かつ安定した利益を実現できる
SaaSのビジネスモデルは、定期的な収益を見込める点が大きな魅力です。サブスクリプション型や従量課金型、フリーミアムモデルなど多様なプライシングモデルを提供することで、顧客がサービスを利用し続ける限り、安定した収益を確保できます。柔軟な料金体系を提供することで、幅広い顧客を獲得しやすくなる点はメリットの1つです。
また、優れたサービスを提供することで顧客の満足度を高め、長期的な関係が築くことも可能です。安定した利益が実現できれば、収益予測が容易になったうえで、企業の持続的な成長につながります。
常にアップデートされたサービスを提供できる
クラウドベースのSaaSは、常に最新のソフトウェアを顧客に提供できる点がメリットです。リアルタイムで機能や修正が反映されるため、顧客は常に最適なサービスを利用できます。
また、アップデート作業が不要で、運用コストや手間が削減されます。これにより、利用者は常に最新のサービスを提供できるため、セキュリティーも担保できるようになるでしょう。加えて、常に最新のサービスを提供すれば、サービス提供企業のブランドイメージ向上も期待できます。
SaaSビジネスモデルのデメリット
SaaSビジネスモデルには次のようなデメリットがあります。
- 投資回収までに時間がかかる
- 新機能やアップデートの提供が必須
- 顧客対応の負担が増加しやすい
それぞれのデメリットを詳しくみていきましょう。
投資回収までにコストと時間がかかる
SaaSビジネスは、サブスクリプション料金や従量課金で収益を得ます。しかし、利益が出るまでには時間がかかります。たとえば、システム開発のための初期投資費用は高額になりやすく、インフラの構築やセキュリティー対策にも多大な時間が必要です。
新規顧客獲得には多くのマーケティングリソースが必要で、最初の数ヶ月から1年以上は利益が出ないケースも予想されるでしょう。
また、ユーザー定着のためにカスタマーサポートやサービス改善も求められます。そのため、事業開始時には十分な資金を準備しておくことが重要です。
新機能やアップデートの提供が必須
SaaS市場では競争が激しく、顧客ニーズに応えるため定期的な新機能やアップデートが必要です。時代遅れのサービスや他社と差別化できていないといったリスクを避けるには、継続的な改善が求められます。競争力を維持するための、十分な投資と計画的なアップデートが欠かせません。
たとえば、市場のトレンド分析や顧客からのフィードバックを受けつつ、独自性のある機能や顧客体験の提供が求められます。
顧客対応の負担が増加しやすい
SaaSビジネスでは、顧客との長期的な関係を維持することが重要です。しかし、問い合わせが増加するほど、サポートへの負担が大きくなります。リソースの圧迫や品質低下を防ぐためには、サポート体制の強化と効率化が不可欠だといえます。
AIツールやセルフサポートを活用し、迅速で効率的な対応を実現することが重要です。たとえば、ユーザー同士が質問と回答を行うコミュニティフォーラムの解説やよく発生する問題を把握し対策を発信するといった方法も効果的です。
SaaSのビジネスモデルで重要な6つの指標
SaaSビジネスの成功を左右するのは、収益性や顧客維持率など、具体的なデータを基にした意思決定です。そのなかでも、以下のように事業の成長や安定性を評価するために欠かせない指標があります。
これらの指標について、それぞれの意味と活用方法を詳しく解説します。
MRR(月間経常利益)
MRRは「Monthly Recurring Revenue」の略です。毎月の定期収益を示す指標を意味します。SaaSビジネスにおける成長性を示す基本データであり、契約の増減や収益の安定性を把握するのに役立ちます。MRRを正確に追跡すれば、契約更新や新規顧客獲得の状況を明確にし、将来的な収益を正確に予測できるようになります。
MRR = 顧客数 × 1ユーザーあたりの月間料金
ARR(年間経常利益)
ARR(Annual Recurring Revenue」は、年間ベースでの定期収益を示す指標です。長期的な事業計画や投資判断に役立つ重要な指標であり、年単位で収益の成長傾向を確認するのに適しています。
ARRを計算することで、月間経常利益(MRR)を基に年間収益を推定でき、ビジネスの規模や収益の安定性をより明確に把握する手助けとなります。
ARR = 月間経常収益(MRR)× 12ヶ月
LTV(顧客生涯価値)
「Lifetime Value」を略したLTVは、顧客が契約期間中に生み出す利益の総額を示す指標です。顧客の価値を評価する際に重要な指標であり、長期間にわたって収益をもたらす顧客を見つけるために役立ちます。LTVを最大化するためには、顧客満足度を向上させ、顧客との関係を維持するための取り組みが必要です。
LTV = 平均顧客単価 × 収益率 × 購買頻度 × 継続期間
CAC(顧客獲得コスト)
CACとは「Customer Acquisition Cost」の略で、新規顧客を獲得するためにかかるコストを示す指標です。マーケティングや広告費用を総合的に分析し、顧客獲得の効率性を評価します。
CACが低ければ、効率的なマーケティング活動が行われており、高い場合はコスト削減の対策が必要といえます。
CAC = 顧客獲得にかけたコスト ÷ 獲得した顧客数
チャーンレート(解約率)
チャーンレート(解約率)は、一定期間内に解約した顧客の割合を示す指標で、顧客満足度や顧客の維持率を評価する際に重要です。解約率が高い場合、サービスの質や顧客対応に課題がある可能性を示唆し、改善が必要です。チャーンレートの改善を図ることで、安定した収益基盤を構築できます。
チャーンレート = 一定期間中に失った顧客数 ÷ 当初の顧客数 × 100
40%ルール
40%ルールは、SaaS企業の収益成長の健全さを測る指標です。収益成長率と営業利益率の合計が40%以上であることを理想とするという考え方だといえます。
40%ルールを重視する企業も多く、売上成長率が高ければ営業利益率が低くても問題ない場合もあります。仮に売上成長率が40%を超える場合は、持続可能な成長を示しており、投資家や経営陣にとって安心材料となるでしょう。
40%ルール = 売上成長率 + 営業利益率 ≥ 40%
SaaSビジネスモデルの成功事例5選
ここでは、SaaSを活用して成功を収めた企業5社の要素や戦略についてみていきましょう。
SaaSビジネスモデルは、定期的に収益を上げやすく事業も拡大しやすいため、多くの企業にとって革新的な方法として成功を収めています。世界中で広く採用されており、数多くの成功事例があります。
HubSpot
HubSpotは、世界No.1シェアを誇るマーケティングオートメーション(MA)ツールなどを提供するSaaS企業です。「HubSpot」というオールインワンプラットフォームを展開しています。インバウンドマーケティングを重視し、営業・マーケティング活動を一元管理できるツールを扱っている点が特徴です。
HubSpotは無料プランや低価格プランで顧客基盤を拡大し、高機能な有料プランへスムーズに移行させる仕組みを構築しています。そのため、LTV(顧客生涯価値)の向上とCAC(顧客獲得コスト)の削減に成功しているといえるでしょう。
Zoom
Zoomは、リモートワークやオンライン会議の需要が急増したことで、成長が加速したSaaS企業の代表格です。特に新型コロナウイルスのパンデミックを契機に、世界中の企業や教育機関がZoomを利用し始めました。
Zoomを成功へと導いた鍵は、シンプルで使いやすいインターフェースに加え、次のような高い汎用性です。
- 無料プランでは最大100名、有料プランで最大500名まで同時にWeb会議が行える
- パソコンやスマートフォン、タブレットなどさまざまなデバイスから利用できる
- 映像と音声の品質が高く、ビジネスや教育の現場でも使用できる
価格帯としても無料プランを提供することでユーザーを引き付け、企業向けの有料プランへの転換を促進する戦略が功を奏しました。
Chatwork
Chatworkは、効率的なビジネスチャットツールを提供するSaaS企業です。スマホやPC、タブレットにも対応しており、情報共有やプロジェクト管理をスムーズに行うための機能が豊富です。タスク管理やビジネスコミュニケーション面では、中小企業にとって欠かせないツールだといえるでしょう。
Chatworkの成功要因は、中心企業向けのフリーミアムプランを提供しており、サービスを試しやすい点にあります。顧客は、無料体験からサービスの良し悪しを判断でき、必要であれば有料プランに簡単にアップグレードしやすいといえます。結果として、競争の激しいビジネスチャット市場での優位性を確立しました。
また、国内ニーズに特化したカスタマイズやサポート体制も評価されています。日本語対応のサポート窓口や国内スタッフによる技術サポートを提供することで、ユーザーがより便利に利用できるサービスを実現しています。
Slack
Slackは、世界中の企業に広く導入されているコミュニケーションツールです。チーム間でのリアルタイムなコミュニケーションを効率化し、組織全体のコラボレーションを強化することを目的としています。
Slackが広く普及した理由は、直感的で使いやすいインターフェースに加え、以下のような豊富な外部ツールとの連携機能です。
- JIRA Software、RedmineやTrelloなどのプロジェクト管理ツール
- Salesforce、HubSpotなどのCRMシステム
- Google DriveやConfluenceなどのドキュメント共有サービス
- ListFinderやMarketoなどのMAツール
無料プランを提供し、企業規模に合わせた有料プランへのアップグレードを促進する戦略が成果を上げました。
Adobe
Adobeは、従来のパッケージ販売からSaaS型のサブスクリプションモデルに転換した大手企業です。Adobe Creative Cloudをはじめ、グラフィックデザインやビデオ編集、Webデザイン向けのプロフェッショナルツールを提供しています。
AdobeがSaaS化に成功した要因は、パッケージ販売の時代に築いたブランド力を活かしつつ、Adobe STOCKやPhotoshopなどの提供によって、1ユーザーあたりの売上アップを実現し、安定した収益基盤を確立したためです。また、定期的なアップデートや新機能の追加により、ユーザーが継続的にサービスを利用し続ける動機付けを行っています。
SaaSビジネスモデルを成功へと導くポイント
SaaSビジネスを成功させるためには、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。
- 顧客維持と解約率の低減
- アップセル・クロスセルを狙う
- データを最大限に活用する
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
顧客維持と解約率の低減
SaaSの成功には、顧客の長期利用と解約率の低減が重要です。顧客ニーズを把握し、満足度を高めることで、不満の解消や契約更新が期待できます。
具体的には、フィードバック収集やサポート強化を実施し、契約更新時にはインセンティブを提供する方法が効果的です。これにより、安定した収益を確保し、LTV(顧客生涯価値)を向上させられます。
アップセル・クロスセルを狙う
アップセル・クロスセルは、SaaSビジネスで収益を伸ばす有力な手法です。アップセルは高価格プランの提案、クロスセルは関連製品や機能の紹介・提案を指します。たとえば、現状のプランでは、顧客の課題が解決できないものの、アップセルによって解決するといった場合は、有効な手段の1つとなるでしょう。
これらを活用して顧客LTVを向上させ、サービスの価値を最大限に引き出します。ただし、顧客の課題解決の結果として売り上げが向上するという流れであるため、顧客の満足度向上や顧客の課題解決に注力する必要があります。
データを最大限に活用する
顧客データを活用することで、SaaS企業はサービス改善やパーソナライズを進められます。顧客行動や利用状況を分析し、使用頻度や解約傾向を把握すれば、改善点を特定可能です。
また、嗜好に合わせた提案やコンテンツ提供で満足度と長期利用を促進できますターゲットを絞った効果的なマーケティングによって、顧客と自社の成長を加速させます。
SaaSビジネスモデルの改善を図ろう
SaaSビジネスモデルは、企業にとって大きな成長の可能性を秘めています。そのうえで、顧客維持や収益の安定化、新たな機能の提供がビジネスの成功に不可欠です。今回解説した内容や成功事例を参考に、重要な指標を活用しながら、持続可能なビジネスモデルを構築するための第一歩を踏み出してみましょう。
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